C/D LISTC/Dリスト 全19行
まず、この資料の中心にあるリストを掲げます。C=いま私たちがデザイン・教育・思考の対象としている現実の記述、D=新しい考え方と実践方法の提案。Cが悪でDが善、ではありません。19行すべてを使う必要はなく、いま自分が引っかかっている1行を選んで使うための道具として書かれています。
出典:アンソニー・ダン&フィオナ・レイビー『ここでもなく、いまでもない』第9章「C/Dリスト──結論に代えて」pp.298–299(千葉敏生 訳/久保田晃弘 監修, BNN, 2026)。各行の解説と補助線は講義スライドおよび書籍をご覧ください。
ABOUTこの資料について
最終課題のステップ3「描く(Not Here)」では、あなたの「つくる」が続いた先の未来像を、現在からの予測ではなく、ここでもなく今でもない場所から描くことを求めています。これは第8回講義で扱った、ダン&レイビーの新しい枠組み「C/Dリスト」の考え方そのものです。この資料は、講義スライド(A/B全22行+C/D全19行を1行1ページで解説したもの)のエッセンスを、課題用に絞り直したものです。
- 遡る(Not Now)自分が「つくって」いるものは何か。名づけを変えると、いつまで遡れるか。どの本能が働いているか。
- 向け直す(リフレーミング)その本能を、創造を止める側から可能にする側へ、群れから惑星のスケールへ。As ifの型で。
- 描く(Not Here)その「つくる」が続いた先の未来像をひとつ。予測ではなくスペキュラティヴに。← この資料はここで使う
A → B → C/D三段のずれ──デザインが疑う対象は、解 → 問い → 現実 と降りてきた
まず全体の見取り図から。スペキュラティヴ・デザインの20年は、デザインが「何を疑うか」が二段階ずれてきた歴史として読めます。
大事な注意がひとつ。後の段階が前を否定するわけではありません。ダン&レイビー自身、BはAの置き換えではなく「もう一つの次元」だと繰り返しています。三段は積み上がるものであって、C/Dの段に立ったからといってAの仕事が不要になるわけではない。むしろ、自分がいまどの段で考えているかを自覚できることのほうが効きます。課題のステップ3で求めているのは、いつもの仕事(AやB)を一度離れて、C/Dの段に立ってみることです。
WHYなぜ「未来」から降りるのか
A/Bリスト(2009年に書かれ、『スペキュラティヴ・エヴリシング』2013の冒頭に置かれた22行)から12年。著者たちが新著『ここでもなく、いまでもない』で「未来」という枠組みそのものを手放した理由は、講義スライドでは4つに整理されています。
- 出発点が壊れている効率化・最適化・大量生産といった当たり前の前提のうえで未来思考を回すと、想像できる範囲そのものが先に狭められてしまう。第1回で扱った「脱未来化(defuturing)」の論点。フューチャーズコーン(現在から広がる可能性の円錐)は、壊れた現在を起点にしている限り、壊れた未来しか描けない。
- 未来形は逃げ道になる遠い未来に設定するほど「まだ来ていない話」として処理され、批評的な距離が生まれない。未来は〈ここでなく、いまでない〉場所を枠づけるひとつの方法にすぎない。
- 改善は在り方を温存するサステナビリティ関連の多くの提案は、害を減らしながら現在の生き方を続けるためのもの。物質は作り直されても、世界における在り方には手が届いていない。
- だから存在論の層へ行動・思考の層 → 世界観の層 → その下の存在論の層。何が存在してよく、何が存在しえないか。デザインが滅多に訪れないその層を素材にする。
その結論として、本の最終章に置かれたのがC/Dリスト(全19行)です。Cは「いま私たちがデザイン・教育・思考の対象としている現実の記述」、Dは「本書で探究してきた新しい考え方と実践方法の提案」。ここでもCが悪でDが善、ではありません。
C/D課題で効く行──講義で注目されたものを中心に
冒頭に掲げた19行のうち、最終課題のステップ3に直接効く行を、講義での解説とともに紹介します。各行の詳しい解説と補助線(思想的な出どころ)は講義スライドにあります。
いま、ここ / ここでもなく、いまでもない01
リスト全体の親概念であり、書名そのもの。デザインは通常〈いま・ここ〉の制約を与件として働きますが、その制約をいったん外し、別の現実に立って日用品を設計する。逃避ではなく、習慣化した見方を外すための場です。SF作家ル=グウィンの「より大きな現実(A Larger Reality)」──想像や不可能まで含めた現実こそがリアルだ、という態度──がその源流にあります。
外挿 / 並列04
外挿は、いまあるデータや傾向を延長して先を描く方法。未来研究の標準装備ですが、出発点が壊れていれば伸ばした線も壊れています。並列は時間の先ではなく、同時にありうる別の現実を横に置くこと。「10年後の私の業界」ではなく「いま同時にありうる、もうひとつの現在」として描くと、「まだ先の話」という逃げ道が塞がります。
What if / As if11
講師陣が最も反応した行。「もしも◯◯なら(What if)」は前提をひとつ変えて何が起きるかを問う構文で、まだ願っている段階。「〜かのように(As if)」は真偽を保留したまま、あたかもその世界に住んでいるかのように振る舞い、その振る舞いのなかで認識のほうを変えていく。仮定の話から、態度の話へ。長谷川さんはLARP(ライブ・アクション・ロールプレイング)をAs ifのツールとして挙げ、七沢はジャングルでの実践をこれに重ねました。課題のステップ2「As ifの型」も、この行が下敷きです。
科学フィクション / 哲学フィクション06
技術の飛躍から物語を立てる(科学)のではなく、概念そのものを物語の素材にする(哲学)。あなたの未来像も「技術予測として正しいか」ではなく「世界の捉え方を変えるか」で考えてください。技術は一切変えず、社会のルールや存在の取り決めだけを動かす思考実験のほうが、たいてい強い違和感をつくれます。
人間中心 / 人間以上09
人間中心設計はデザインの標準教義でしたが、動物・植物・微生物・機械・生態系までを設計の当事者に含める視点。第8回の「群れから惑星へ」「惑星的想像力」と直結します。あなたの未来像に、人間以外は誰がいますか。
別の未来 / 思弁的存在論12
別の未来を描く作業は、結局のところ時間軸上の分岐にとどまります。思弁的存在論はその手前、「何が存在してよいか」という取り決めのほうを扱う。原島さんの補足がそのまま使えます──「何が存在して何が存在しないかという境界線そのものを、違うところに引き直せる」。
ユートピア/ディストピア / ヘテロトピア14
ユートピアもディストピアも「ここではない場所」として遠くに置かれるので、安全に消費できてしまう。ヘテロトピア(フーコー)は違います。墓地、庭園、美術館、船──現実のなかに実在しながら、外の秩序を映し返し、反転させる場所。デザインが実際に作れるのは、おそらくこちらです。あなたの未来像を「遠くの理想郷」ではなく「現実の中に作れる、別の秩序の場所」として描けないか試してみてください。
処方箋 / プロンプト16
処方箋は診断と治療をセットで渡す。プロンプトは受け手に続きを書かせる。あなたの提出物も、完成した答えである必要はありません。読んだ人が考え始めてしまう「最初の一手」として置けているなら、それで成立しています。
技術的理性 / 宇宙技芸18
技術に普遍的な合理性がひとつあるのではなく、技術は各文化の宇宙論と道徳に埋め込まれた複数形である(宇宙技芸=ユク・ホイ)。ここは技術哲学(8月17日開講)で本格的に掘り下げます。
可能対象 / 不可能対象19
最終行。ペンローズの三角形のように、描けるのに存在しえないもの。作ることで「なぜこれは不可能なのか」が前景化し、問いは自動的に存在論へ向かう。長谷川さんはここを「テキストからさらに立体化して、生活の中につながっていく途中の具体性こそが、デザインでやることの面白さであり難しさ」と締めくくりました。
HOW TO USEステップ3で使うための実践ルールとセルフチェック
実践ルール──前提は「ひとつだけ」差し替える
講義スライドのワークにあった重要なルールです。C/Dの19行からひとつ選び、あなたの「つくる」の前提をひとつだけ差し替えて、その世界を描く。ふたつ以上動かさないこと。ふたつ以上動かすと、読む人はどこが変わった世界なのか読めなくなり、ただの絵空事に見えます。差し替えはひとつでいい──そのかわり、その世界の日常の手触り(誰が、どんな場所で、どんな顔でそれをしているか)まで具体的に書く。具体性を上げるほど、問いは強くなります。
セルフチェック
未来像を書き終えたら(あるいは書き出せずに困ったら)、次の5つを自分に問いかけてみてください。
- 外挿になっていないか。いまのニュースや業界トレンドの延長線なら、それは予測であってスペキュレーションではない。出発点の「壊れた現在」ごと疑えているか。時間の先ではなく「横に並ぶもうひとつの現在」として描き直せないか。
- What ifで止まっていないか。「もし◯◯だったら面白い」という願望の記述か、それとも「その世界に住んでいる人」として書けているか。一人称で、その世界の日常の手触りが書けるか試す。
- 人間(それも自分の群れ)だけの未来になっていないか。他の生き物、他の地域、未来の世代はその絵のどこにいるか。
- 存在の境界線をどこに引いたか。その未来で「あたりまえに存在するもの」に、いまは存在しないと思われているものが入っているか。
- 「不可能」と決めているのは何か。技術か、制度か、本能か。その不可能性は、ステップ1〜2で掘り下げた本能とつながっていないか。
書き出しの型(例)
ここでもなく、いまでもないその場所では、わたしの「つくる」は──であるかのように営まれている。As ifの型による書き出しの一例。この型に従う必要はありません。
REFERENCES文献・リンク
- アンソニー・ダン&フィオナ・レイビー『ここでもなく、いまでもない──スペキュラティヴな思考、不可能性、そしてデザインの想像力について』千葉敏生 訳/久保田晃弘 監修(BNN, 2026)──C/Dリスト全19行は第9章 pp.298–299。19行それぞれの意味は本書全体を通して展開されています。原著 Not Here, Not Now(The MIT Press, 2025)。
- アンソニー・ダン&フィオナ・レイビー『スペキュラティヴ・デザイン──問題解決から、問題提起へ。』千葉敏生 訳/久保田晃弘 監修(BNN, 2015)──A/Bリスト全22行の原典。原著 Speculative Everything(The MIT Press, 2013)。
- 長谷川愛『20XX年の革命家になるには──スペキュラティヴ・デザインの授業』(BNN)──講師によるスペキュラティヴ・デザイン入門。
- 講義スライド「A/B・C/D──スペキュラティヴ・デザインの二つのリストを読み直す」──A/B全22行+C/D全19行を1行1ページで解説。受講生向け案内のリンクからご覧ください。
- 最終課題「わたしの『つくる』から始める未来」──この資料が支える課題本体。
- 第8回まとめレポート──講義全体の記録。長谷川パートは「2. A/BからC/Dへ」。