UNSTOPPABLE APPLICATIONS

テクノロジーの未来学 第4回
分散化の先にあるものは?
──ブロックチェーンが築くレジリエンスな社会

まとめレポート(講義動画 2時間2分40秒より作成)

講座
makers Unlearn(mU)
講師
守慎哉(imi Inc. 共同創業者&アーティスト)
モデレーター
七沢智樹
収録時間
2:02:40

OVERVIEW概要

第4回の講師は、Ethereumエコシステムでデジタル公共財への資金分配メカニズムを研究開発する守慎哉氏。「怪しい」「金儲け」「NFT」——ブロックチェーンにまとわりつく連想をアンラーンし、「レジリエンスな社会のためのインフラ」として捉え直す2時間だった。

守氏はもともと「長く残り続けるものに携わりたい」と官僚を志望し、省庁面接まで進んだ段階でブロックチェーンに出会って転向したという経歴の持ち主。「国家の公共政策よりも長く残り、より公共性が高い」——この確信を軸に、講義は①ブロックチェーンとは何か(止まらない・復旧するための設計思想)、②コミュニティの根底に流れる文化と思想(サイファーパンクからd/acc、Pluralityまで)、③私たちは何を作ればいいのか(デジタル・オフグリッドと「kuu village」の実践)の3部で展開された。

結論はこうだ。ブロックチェーンは平時には「役に立つと感じにくい」。その真価は、戦争や災害といったブラックスワンの時にこそ発揮される、永遠に動き続ける恒久インフラである——「Ethereumは夢から生まれた。自由への夢である」というEthereum Foundationの言葉に貫かれた、技術と思想が一体になった回だった。

タイムスタンプはすべて編集済みアーカイブ動画(前後カット済み)の再生位置です。スクリーンショットは講義スライドの引用(©守慎哉/imi Inc.)。

CONTENT内容

1. オープニング — 官僚を目指した青年がブロックチェーンへ0:00:00–0:04:17

七沢氏より守氏を紹介。2020年から世界第二の規模のブロックチェーンEthereumのエコシステムに貢献し、オープンソースソフトウェアなどの公共財に対する資金分配メカニズムやインパクト評価の研究開発を行う。2024年にはEthereum Foundation主催の国際カンファレンス「Devcon SEA」で研究成果を発表、デジタル公共財の国際カンファレンス「Funding the Commons Tokyo」を共同主催している。導入トークでは「もともと官僚を目指していた」というエピソードが掘り下げられた——スタートアップのプロダクトが生まれては消えることに虚しさを感じ、「長く残り続けるもの」=公共政策を志したという原点である。

2. アンラーンの入口 — 「怪しい」の先へ0:04:17–0:14:49

ブロックチェーンに対する印象は?
0:05:41ブロックチェーンの連想ワード。「怪しい」「金儲けの道具」「NFT」「マネーロンダリング」——世間の印象は金の話と不信に二分される。
守慎哉氏のプロフィール
0:07:56守氏のプロフィール。Devcon SEAでの研究発表、Funding the Commons Tokyoの共同主催など、Ethereumエコシステムの中で公共財の資金分配を研究する。

本講義の目的は「なぜブロックチェーンを使うのか」に自分なりの回答を持てるようになること。答えは冒頭で先に明かされた——「レジリエンスな社会のため」。

「ブロックチェーンの方が、国家や官僚がやろうとする公共政策よりも長く残り続けるものに思えたし、より公共性が高いと感じた。僕としては、すごく公共事業をやっている感覚でいるんです」— 守慎哉(0:12:57)官僚志望からの転向理由

3. ブロックチェーンとは — 止まらないアプリケーション0:14:49–0:31:07

Ethereumは夢から生まれた
0:15:31Ethereum Foundationの「EFマンデート」冒頭より。「Ethereumは夢から生まれた。自由への夢である」——個人の自由と尊厳のためのテクノロジー。
止まることがないアプリケーションを作る
0:18:362016年のEthereum公式サイトには「Build Unstoppable Applications」とある。Vitalik Buterinは「スマートコントラクトではなく永続的スクリプト(persistent scripts)と呼ぶべきだった」と後悔をツイートした。
レジリエンスの概念図
0:20:16脆弱性・堅牢性・レジリエンス・反脆弱性の比較。ガラス(壊れて終わり)でも石(耐えるが限界で割れる)でもなく、スライムのように「一時的に機能を失っても回復する」のがレジリエンス。

止まらないための設計は、単一障害点の排除=ネットワークと権限の分散化、地理的分散、クラウドよりローカル。止まっても復旧するための設計は、オープンソース公開・クローン可能性・レゴのようなコンポーザブルな構造。ブロックチェーンはこの「ブラックスワンを想定した設計」からスタートしている。

ブロックチェーンが生まれた歴史・背景
0:28:46Bitcoin(サトシ・ナカモト、リーマンショック背景、デジタルゴールド)とEthereum(Vitalik Buterin、汎用ワールドコンピューター)の対比。

4. DAOとインセンティブ設計 — 成功と失敗を分けるもの0:31:07–0:39:35

DAOの分類図
0:33:43Vitalik Buterinの分類。DAOは「永続的に動き続けるソフトウェア・ネットワーク」であり、世間で「DAO」と呼ばれる人の集まりの多くは、実はDC(分散型コミュニティ)にあたる。
ビットコインのインセンティブ設計
0:37:16成功例=ビットコインのループ。マイニング(クイズ大会)で稼げる→人が集まる→ネットワークが強固になる→価値が上がる→さらに人が集まる。「歩いて稼ぐ」系の失敗は、人が集まることのシステム側のメリットが無いままトークンだけが配られること。

5. ブロックチェーンは「公共事業」0:39:35–0:45:07

ブロックチェーンは公共事業
0:44:46財の4分類(私有財・クラブ財・コモンプール財・公共財)。非排除性の財は市場原理では供給されにくく、通常は政府が担う——ブロックチェーンはまさにその領域にアプローチする。

ブロックチェーンのコミュニティから見れば、現在の社会システムは脆弱であり、良くてもロバストにすぎない。Ethereumは「生活を便利にする」テクノロジーではなく「安定した生活」を実現するための公共事業である——この視点の転換が、講義前半の到達点である。

6. 根底に流れる思想 — サイファーパンクからd/acc、Pluralityへ0:45:07–1:11:29

後半は「未来学っぽい話」として、コミュニティの根底に流れる文化と思想を巡る。出発点は1993年のサイファーパンク宣言(暗号技術で個人の自由を守る)とソーラーパンク(自然と調和した未来像)。カウンターカルチャー、ヒッピー、DIY、パーマカルチャーの系譜であり、守氏は「遠い未来から見れば、Ethereumも含めて今は『ヒッピーの時代』と呼ばれるのではないか」と第1回講義に接続した。

d/accとe/accの対比
0:49:46e/acc(効果的加速主義:進歩を最大限加速せよ)に対し、Vitalik Buterinが提唱したd/acc(分散・民主・差分・防御加速主義)。技術の善悪ではなく「加速させる方向」を問う。
PLURALITY書影
0:53:56オードリー・タンとグレン・ワイルの『PLURALITY』。「社会的差異を超えたコラボレーションのための技術」——アクセルとブレーキだけでなく「ハンドル」を。
QV/QF/Pol.isの例
0:56:21Pluralityを体現する技術。Quadratic Voting/Funding(1人の100万円より100人の1万円)、Pol.is(対立ではなく「合意できる点」を発見する。台湾のUber導入で実用)、そしてブロックチェーン。
Ethereum FoundationのInfinite Garden
1:02:21Ethereum Foundationの立場「Infinite Garden(無限の庭)」。勝利ではなく継続を目的とし、EFは支配者ではなくコーディネーターに徹する「引き算の哲学」。
ポップアップビレッジ/シティ
1:07:56バラジ・スリニヴァサンの「ネットワークステート」構想への、Vitalik流の実践的応答が「Zuzalu」(2023年モンテネグロ)。共同生活を通じて「国や都市をゼロからつくるとどうなるか」を探るポップアップビレッジ/シティ。
21世紀のための政治的イデオロギーの三角形
1:09:21グレン・ワイルによる21世紀のイデオロギー整理。企業的リバタリアニズム(e/acc・ネットワークステート)、テクノクラシー、デジタル民主主義(d/acc・Plurality・Infinite Garden)の三角形。

7. 私たちは何を作ればいいのか — デジタル・オフグリッドとkuu village1:11:29–1:28:12

Ethereum的な価値観をフィジカル空間へ拡張
1:13:26守氏独自の解釈「デジタル・オフグリッド」。太陽光発電や井戸(フィジカル)と、ブロックチェーン・メッシュネットワーク・暗号化メッセージ・自己ホストサーバー・ローカルLLM・VPN(デジタル)を、同じ「オフグリッド生活のインフラ」として並べる。
巡回型の実験村 kuu village
1:17:46守氏の実践、巡回型の実験村「kuu village」。第1回は2025年10月に奈良市(旧月ヶ瀬)、第2回は2026年5月に佐賀県嬉野市(旧塩田町)で開催。井戸掘り、サウナ小屋、竹の茶室、オンチェーンガバナンス体験、不要PCでのセルフホストなど、デジタルとフィジカルのオフグリッドを同時に実践する。
社会・システムを自然現象にする
1:24:11まとめの技術哲学的イメージ。ブロックチェーンは社会システムを、常に自律的に動き続ける「自然現象」にする技術——自然の模倣でも支配でもない「自然の構築」。
「ブロックチェーンは役に立つと感じにくいと思います。なぜなら、役に立つ瞬間がないから。役に立つ瞬間はブラックスワン——予期せぬ危機、戦争とか災害とか、混沌に陥った時にこそ真価を発揮するものだと思っています」— 守慎哉(1:26:31)講義の結論

8. Q&A・ディスカッション1:28:12–1:59:54

プライベートブロックチェーンについて(前回の中国回の政府主導チェーン、受講生から質問のあった某国の中央銀行デジタル決済システムを受けて)——守氏の回答は明快だった。

「僕は言いますが、それはブロックチェーンじゃないです。それは嘘です。騙されてはいけない。なぜかというと、止めることができるからです」— 守慎哉(1:29:19)。51%を握れば理論上改ざんでき、「やらないだけ」。むしろ中央サーバーと名乗って責任を持つ方が誠実だ、と。

普及の条件——「GoogleやYouTube並みに軽くラフなUI/UXが必要。しかし、それでもなお普及しない。有事が起きないとブロックチェーンの良さは分からない。オルタナティブをオルタナティブとして待機させておくのが誠実な回答」。実際に普及が進むのはナイジェリア(暗号資産ユーザー約7割)やエルサルバドルなど、既存システムより「技術を信じる」方が合理的な場所である。日本にとっては、自然災害への防災的リスクヘッジとしての意味が示唆された。

富の再分配になりうるか——トークンは「何もないところから価値が生まれる」一見ポンジ的な発想だが、オープンソース開発者やボランティアへのグラント分配として実際に機能している。格差是正・政情不安国の救済——止められないシステムとしての安定に加え、銀行手数料が高いグローバルサウスでは1ドル未満のマイクロペイメントが低手数料で可能という実利で普及している。

終盤は長谷川愛氏を交えて民主主義と国家をめぐる本質的な議論に。「チェーン自体は人の意見と無関係に動き続けるが、何を作るかの合意形成にはリスクが残る。だからこそPol.isのような合意形成技術を加速させたい」と述べたうえで、守氏は自らの立場を率直に明かした——「僕は『国家っていらなくない?』という発想が前提にある。自分と周りの人たちだけで生きていく環境をつくる。ヒッピー的な価値観が現代に残っている感じ」。これに対し長谷川氏から「漁業権や森林などの資源管理にはむしろ官僚制が必要では」という反論があり、資源収奪への歯止めの問題は第1回の松島氏の議論とも接続する宿題として残された。

9. クロージング1:59:54–2:02:40

七沢氏の総括:未来の構想は多次元的であり、既存のテクノロジー概念・「作る」概念では限界がある。守氏が示したブロックチェーンは、それを超えるための新しい概念の鍵の一つ。最終回(第8回)には守氏はじめ各講師にも参加してもらい、全員で問いを再考したいと提案された。また、意識研究財団が購入予定の北杜市の森でのフィールド講義・井戸掘りなど「ビレッジ」構想の実践も予告され、「学びを止めない、実践を止めない」の言葉で締めくくられた。

CONCLUSIONまとめ

  1. ブロックチェーンの本質は「止まらないこと」スマートコントラクトの本質は「永続的スクリプト」。単一障害点の排除・分散化・オープンソースという設計はすべて、ブラックスワンを想定した「止まらない・復旧する」ためのものである。
  2. 「便利」ではなく「安定」のための公共事業市場が供給できず政府が担ってきた公共財の領域に、国家より長く残るインフラとしてアプローチする。金儲けの道具という連想は、この技術の一面にすぎない。
  3. 技術の背後には思想があるサイファーパンクからd/acc、Pluralityまで——「どの方向に加速するか」「違いを力に変えられるか」という問いがコミュニティを駆動している。ネットワークステートとデジタル民主主義の緊張関係も含めて、イデオロギーの地図を持つことが未来を読む力になる。
  4. デジタル・オフグリッドという実践ブロックチェーン、ローカルLLM、自己ホスト、メッシュ通信を、井戸や太陽光と同じ「自立した生活のインフラ」として捉える。kuu villageのような小さな実験が、「国家に依存しない生活」のプロトタイプになる。
  5. オルタナティブをオルタナティブとして待機させるブロックチェーンの真価はブラックスワンの時にしか分からない。だからこそ、平時から動き続ける代替インフラを育てておくこと——それが「レジリエンスな社会」への誠実な備えである。

第3回で高口氏が描いた「未来を構想しない中国」と対照的に、第4回は「自由への夢」という思想から未来のインフラを構想するコミュニティの話だった。国家・市場・コミュニティの間で「つくる」をどう再配置するか——mU全体を貫く問いが、また一つ具体的な足場を得た回である。

本レポートは講義動画の自動文字起こし(Whisper large-v3-turbo)をもとに作成。固有名詞は可能な範囲で確認済みですが、一部推定を含みます。引用は発話の趣旨を保ったまま軽く整文しています。

APPENDIX付録 — Zoomチャット・ディスカッションまとめ

講義中のZoomチャットの議論を、発言者名を省略しテーマ別に要旨整理する。

実務の最前線から

東南アジアの決済インフラをめぐって

社会への応用可能性

思想と体験

個人情報保護のため、受講生の氏名・所属は削除し、発言は趣旨を保ったまま要約・整文しています。時刻はZoomチャットのタイムスタンプ(実時間)であり動画の再生位置と異なるため省略しました。