FUTURES LITERACY

テクノロジーの未来学 第1回
テクノロジーの未来学概論──FUTURES LITERACY
〜未来を想像/創造するリテラシー

まとめレポート(講義動画 2時間1分39秒より作成)

講座
Makers Unlearn(mU)
講師
松島倫明(山梨県立大学客員教授/『WIRED』日本版 編集長)
モデレーター
七沢智樹
収録時間
2:01:39

OVERVIEW概要

Makers Unlearn 開講初日を飾る第1科目「テクノロジーの未来学」の第1回。客員教授に就任したWIRED日本版編集長・松島倫明氏が、「フューチャーズリテラシー=未来を想像/創造するリテラシー」を主題に約100分の講義を行い、その後Q&Aとディスカッションが続いた。

講義の核となる問いは、サイバーパンクの祖ウィリアム・ギブスンの「なぜ僕らは22世紀を想像できないのか」。私たちが思い描く未来は、実は20世紀の西側諸国が作った「誰かの未来」の再生にすぎないのではないか——この認識から出発し、手にしている単数形の未来をいったん終わらせる「脱未来化(De-Futuring)」と、多元的な未来を新たに立ち上げる「再未来化(Re-Futuring)」という2部構成のフレームワークが展開された。

後半の再未来化パートは、松島氏が3年をかけて執筆中の新著(2026年10月刊行予定)の中核となる「7つの軸・14のキーワード」の初公開に近い内容であり、AI以後の社会の底流を読むためのパラダイム転換が一気に提示された。

タイムスタンプはすべて「冒頭カット済み」動画の再生位置です。スクリーンショットは講義スライドの引用(©Condé Nast Japan ほか、出典は各画像内に記載)。

CONTENT内容

1. オープニング — プログラム全体の導入0:00:00–0:09:13

七沢氏より、12科目・合計210時間のプログラム開講の挨拶。本科目のテーマは「未開の未来」——「私たちが思い描く未来は、誰かが作った未来ではないか。本当の意味で未来を想像できているか」という問いが提示された。「このプログラムは答えを探すのではなく、問いを深めることが目的」という学びの姿勢も強調された。

ゲストの松島倫明氏は、NHK出版時代に『フリー』『シェア』『MAKERS』などを手がけた編集者であり、日本のメイカームーブメントの立役者。スクール名「Makers Unlearn」の由来にも関わる人物として、2026年6月に客員教授に就任した。

2. フューチャーズリテラシーとは0:09:13–0:24:00

WIREDは1993年に米西海岸で創刊された「未来を実装するメディア」。単に「AIがすごい」ではなく、テクノロジーが生活・社会・都市・思想哲学をどう変えるかという「意味と文脈」を切り取ることを使命とする。リテラシー(読み書き)とは世界の認識の仕方そのものを決めるもの——それが今日の講義タイトルの意図である。

15年後の生活は良くなるかの国際比較グラフ
0:12:07「今後15年で生活は良くなるか」の国際調査。ケニアなど新興国は約7割が楽観する一方、先進国ほど悲観的になり、最下位の日本は約10%。

なぜこれが問題なのか。ニーチェの言葉「過去が現在に影響を与えるように、未来が現在に影響を与える」が引かれる。どんな未来を思い描くかは、未来だけでなく「今のあなた」を変える。10人に1人しか未来を信じない社会は、その「現在」がすでに大きく損なわれている。

ウィリアム・ギブスン なぜ22世紀を想像できないのか
0:15:40講義全体を貫く問い。2020年のSFプロトタイピング特集でギブスンが投げかけた「なぜ22世紀を想像できないのか」。

1950年代(ミッドセンチュリー)の人々は、宇宙移住・空飛ぶタクシー・ロボットとの暮らしといった「21世紀像」を世界的に共有できていた。しかし今、22世紀を想像しろと言われても、私たちは20世紀と同じ絵しか描けない。しかもかつて共有されていた未来像とは、実は「20世紀の西側諸国の白人男性インテリが考えた進歩主義的な未来」をみなでシェアしていただけではないか。

ここからWIREDは2020年以降、単数形のFutureではなく複数形の「Futures」を掲げる。アフロフューチャリズム、湾岸未来主義、中華未来主義といった多元的な未来像の存在が紹介され、象徴的な出来事として大阪・関西万博のタグラインが開幕時の「一つの輝かしい未来を全員に」から、閉会式では複数形の「For the Futures」へ転換したことが語られた。

大阪・関西万博 For the Futures
0:21:45大阪・関西万博の閉会式タグライン「For the Futures」。WIREDは前年に「万博は一つに収斂できない多数の未来の共存を示す場であるべき」と提言していた。

3. 脱未来化(De-Futuring)— この未来を終わらせる0:24:00–0:49:56

「脱未来化」はデザイン理論家トニー・フライに由来する語で、本講義では「今手にしている単数形の未来をいったん終わらせ、オルタナティブな可能性を見つけること」として使われる。そのためのマインドセットとツールが順に紹介された。

マクルーハン バックミラーの言葉
0:29:35マクルーハン「われわれはバックミラーを通して現在を見ており、未来に向かって後ろ向きに進んでいる」。テレビは当初「絵のついたラジオ」として使われた。
鉄の馬の風刺画
0:30:1819世紀の少年雑誌に描かれた「鉄の馬」。内燃機関と鋼鉄を手にした馬車時代の人々が想像した「未来の乗り物」。今のAIエージェント像も鉄の馬ではないか、と常に自問する。
未来の円錐 Futures Cone
0:32:55Futures Cone(未来の円錐)。企業や行政の未来プロジェクトの大半は過去の投影である「Projected Future」に収まる。問うべきは「Preferable(望ましい)未来」。

ツールとしてのSFプロトタイピングは「未来をリハーサルできる」方法論。技術や企業の視点ではなく、主人公=人の視点、マイノリティや動物の視点から未来を眺められる。ベゾスやマスクがSF少年として20世紀に読んだ未来を富と権力で実現している現在、「どんなSFを描くか」自体が社会を動かす。

オードリー・タン Good Enough Ancestor
0:38:55オードリー・タンのドキュメンタリー「Good Enough Ancestor」。完璧な未来を手渡すことは未来世代の価値観を固定してしまう。「十分に良い先祖」であれ。

ケビン・ケリーの「プロトピア」(良いこと51対悪いこと49で毎年1%ずつ前進する)を引きつつ、松島氏は自身のポジションを「戦う楽観主義」——お花畑の楽観ではなく、問題に真正面から向き合いコミットする楽観——として宣言した。

「多分22世紀の人から見れば『2026年に生きてた人たち、ほとんどAIについては何も分かってなかったよね』となる。僕らはまだ始まったばかりの時代を生きているんだと考えることは、長期的な視点を与えてくれるし、割と謙虚にさせてくれる」— 松島倫明(0:45:02)「未来から現在を見る」視座より
脱未来化のまとめスライド
0:48:50脱未来化のまとめ。マインドセット(バックミラーに映る未来・鉄の馬・グッドイナフ・アンセスター・歴史の終わりという錯覚)とツール(未来の円錐・SFプロトタイピング・未来が過去を書き換える)。

4. 再未来化(Re-Futuring)— 7つの軸・14のキーワード0:49:56–1:46:31

後半は、松島氏が3年がかりで執筆中の新著(現在ゲラ段階・10月刊行予定)の中核となる「7つの軸」。株価を動かす表層のニュースではなく、5年〜30年の底流にあるパラダイム転換を掴むための対概念である。

再未来化 7つの軸のスライド
0:51:15再未来化の7つの軸。Scarcity/Abundance から Generative/Regenerative まで、14のキーワードが対概念として並ぶ。
限界費用のグラフ
1:00:12軸1「希少さ/潤沢さ」。物理的希少性の世界の限界費用(左)と、デジタルの限界費用ゼロ(右)。20世紀の大量生産・大量消費社会の前提が崩れる。
「電気をつけていることをわざわざ『すげー今日電気使ってるぜ』って思わないのと同じように、近い将来僕らは、AI的なる知能を使いながら『今AI使ってんだよね』とは誰も思わないような社会がすぐにやってくる」— 松島倫明(1:08:19)知能の潤沢化について
実験科学から計算科学へ
1:06:00軸2「実験科学→計算科学」(量子コンピューター起業家・北川拓也氏の整理)。実験でしか進めなかった科学がシミュレーションで進む。
NVIDIA Cosmos 自動運転シミュレーション
1:10:18NVIDIAの自動運転シミュレーション基盤Cosmos。「起こらなかった事故」が何兆回もシミュレートされることで現実の安全が担保される——現実とシミュレーションは表裏一体になる。
ドキュメンタリー イベリン
1:14:43軸3のケーススタディ、Netflix『イベリン』。筋ジストロフィーの青年がオンラインゲーム内で豊かな人生を生き、死後に世界中から弔辞が届いた。バーチャルで起こることは現実である。
オードリー・タンのプルラリティの言葉
1:27:43軸4の締めくくり。オードリー・タン「『シンギュラリティは近い』と聞いたときには、『プルラリティは常にここにある』ことを思い出そう」。
Apple製品の進化系統図
1:40:33軸6より、ケビン・ケリー『テクニウム』の議論。Apple製品の進化系統図は生物の系統樹と同じ構造を示す。テクノロジーも自己生成する情報システムである。
ブローティガンの詩のスライド
1:44:53リチャード・ブローティガンの詩「愛にあふれ恩寵に満ちた機械がすべてを見守る」(1967)。技術と自然の融合という世界観は、50年前のカウンターカルチャーにすでにあった。

講義本体の結び(1:46:04)では、万博での落合陽一氏の言葉「人工知能が出てきて、僕らはもう知能ってところはおまけです」にも触れながら、技術と自然をどう融合していくかを7つの軸から捉えることが「Futures Literacyの再未来化」として提示された。

5. Q&A・ディスカッション1:49:05–2:01:39

Q. 「未来を問うこと自体が贅沢な問いではないか。未来を考えることが現実にどう影響するのか」(途上国で活動する受講生より)

松島氏の回答:執筆に3年かかった最大の理由がまさにこの問い。未来を描くことは今を生きることと同じであり、「未来が生成する意味の場になんとか到達したい」というのが新著の核心。未来は「未来人のもの」でも「自分で全部変えられるもの」でもなく、その間で——気持ちよくなくても——やっていくしかない。途上国の現場で医療・教育・貧困に向き合う人こそ、まさに未来を作り、未来にコミットしている。

「課題に従事している間に『誰かが作った未来』に巻き込まれていく。そうして未来が植民地化されていってることに、ほとんどの人は気づけていない。未来を問うことがリテラシーになっていなかった」— 七沢智樹(1:53:14)

同席した長谷川愛氏(本講座講師)からは「テクノロジー本は事例がすぐ古びる難しさがある」「Futures Coneの外にあるブラックスワン=考えていないことをどう考えつくか」という問題提起があり、松島氏は「未来から今を相対化して認知フレームをずらすこと」の面白さで応答。クロージングでは、10月の新刊刊行に合わせた出版記念イベントの開催が約束された。

CONCLUSIONまとめ

  1. 私たちは「20世紀の未来」をまだ生きている思い描く未来は誰かが作った未来の再生にすぎない可能性がある。「今考えているイノベーションは鉄の馬ではないか」と常に自問することが、脱未来化の出発点。
  2. 未来は現在を変えるニーチェ「過去が現在に影響を与えるように、未来が現在に影響を与える」。未来を信じる人が10%しかいない日本では、未来を想像するリテラシーそのものが急務である。
  3. 単数形のFutureから複数形のFuturesへ望ましい未来は一つに収斂しない。脱未来化(この未来を終わらせる)と再未来化(多元的な未来を立ち上げる)の往復運動がフューチャーズリテラシーの核。
  4. 7つの軸でAI以後の底流を読む希少/潤沢、実験/計算、物理/仮想、単数/複数、サイバネティック/ポエティック、エントロピー/エクストロピー、ジェネラティブ/リジェネラティブ。流行のカーブではなく、10年〜50年の社会実装のカーブで変化を捉える。
  5. 戦う楽観主義でコミットするプロトピア=51対49で毎年1%前進する。未来は予測するものではなく、気持ちよくなくても関わり続けるもの。課題の現場に向き合う人こそ未来を作っている。

第1回として、本プログラム全体を貫く問い——「未開の未来」をいかに探索するか——の理論的な土台が提示された回だった。松島氏の新著は2026年10月刊行予定で、刊行に合わせた出版記念イベントが企画される。受講生には「その頃には全然違う未来の見え方をしているはずなので、その差分を感じ取り、問い続けてほしい」というメッセージが送られた。

本レポートは講義動画の自動文字起こし(Whisper large-v3-turbo)をもとに作成。固有名詞は可能な範囲で確認済みですが、一部推定を含みます。引用は発話の趣旨を保ったまま軽く整文しています。

APPENDIX付録 — Zoomチャット・ディスカッションまとめ

講義中のZoomチャットでは、受講生同士および七沢氏を交えた活発な議論が並行して進んだ。発言者名は省略し、テーマ別に要旨を整理する(講師・登壇者および言及された公人・書籍著者名のみ記載)。

日本の未来悲観をめぐって

鉄の馬・SFプロトタイピングをめぐって

「歴史の終わり」と幼年期

AIと「未来の固定化」— 再帰性と偶然性

未来を考える意味はあるのか

途上国の現場から — Q&Aにつながった問題提起

計算科学・バーチャル化・人外との共生

締めの一言

「ギブスンの別の言葉で好きなのが『未来はすでにここにある——ただ、まだ均等に行き渡っていないだけだ』というものです。未来を考える意味や必要性も、また均等には行き渡らず、それぞれ多元的なのだと感じました」— 受講生のコメントより(多数の共感を集めた)

チャットで共有された主なリンク

個人情報保護のため、受講生の氏名・所属・学籍番号は削除し、発言は趣旨を保ったまま要約・整文しています。時刻はZoomチャットのタイムスタンプ(実時間)であり、動画のタイムスタンプとは異なるため省略しました。